オーディエンスビルディングを支えるエンゲージメント獲得設計 – YouTubeチャンネル「Aosトラットリア」に学ぶ

コンテンツマーケティングにおいて、レベルの異なる複数のエンゲージメント獲得ポイントを設けることは、持続可能なオーディエンスビルディングの基盤となります。

お気に入りのYouTubeチャンネルを4年間楽しんでいるうちに、私は偶然にもコンテンツマーケティングにおけるオーディエンスビルディングの一例を学ぶことができました。

そのYouTubeチャンネルは「Aosトラットリア」(読み:アオズトラットリア)。イタリア料理のレシピを紹介するチャンネルです。2020年6月に開設され、現在のチャンネル登録者数は28万人に達しています。

YouTubeチャンネル「Aosトラットリア」
YouTubeチャンネル「Aosトラットリア」
目次

コロナ禍でレストラン事業が打撃を受ける中でスタートした「Aosトラットリア」

「Aosトラットリア」は、コロナ禍でレストラン事業が打撃を受ける中でスタートしました。現在では多くの視聴者を持つチャンネルですが、YouTubeを始めたきっかけは、レストラン事業が大きな打撃を受け、「何かできることはないか」と模索した結果だったようです。

そのため、彼らが「コンテンツマーケティング」や「オーディエンスビルディング」にどれほど意識的に取り組んでいたかはわかりません。

「数店舗のイタリアンレストランを運営していた企業が、コロナの影響で危機的状況に陥り、できることから必死で取り組んだ結果、偶然にもYouTubeチャンネルを中心にコンテンツマーケティングとオーディエンスビルディングを成長させることができた」と外部からは見えます。実際には、彼らはもっと多くの困難に向き合ったはずです。

YouTubeチャンネル「Aosトラットリア」概要と経緯
YouTubeチャンネル「Aosトラットリア」概要と経緯
YouTubeチャンネル「Aosトラットリア」概要
  • イタリアンレストランを運営する株式会社フェリーチェと映像制作の株式会社デフコンファイブによる共同プロジェクト(推測)
  • 2020年6月開始、チャンネル登録者数28.9万人(執筆時)
  • YouTubeチャンネルの初期からECも運営(BASE)、2023年7月から新しいEC「Aos Tavola」開始(Shopify)
  • ワイン専門YouTubeチャンネル「ソムリエ青池とゆかいな仲間たち」も運営、チャンネル登録者数6,400人(執筆時)

動画は当初ほぼ毎日投稿されていましたが、現在は週4回の投稿となっています。その代わり、2024年7月からスタートしたワイン専門チャンネル「ソムリエ青池とゆかいな仲間たち」では毎日動画が投稿されています。

これまでの経緯
  • 2020年6月 1本目の動画
  • 2021年4月 チャンネル登録者数1万人、電子書籍レシピ本発売(この後定期的に発売)
  • 2021年5月 YouTubeの急上昇クリエイターに選出される。チャンネル登録者数6万人
  • 2022年1月 チャンネル登録者数10万人
  • 2022年11月 イタリアンレストラン「ラ・ボッテガイア」がミシュランガイド東京2023のビブグルマンを獲得
  • 2023年7月 新EC「Aos Tavola」開始
  • 2024年7月 ワイン専門YouTubeチャンネル「ソムリエ青池とゆかいな仲間たち」を開始

私は2020年の後半にAosトラットリアに出会い、YouTubeレシピを参考に自宅で料理を楽しんでいました。チャンネル登録者数が1万人を超えたとき、「わーおめでとうー」と思っている間もなく、YouTubeのおすすめチャンネルにピックアップされ、登録者数は急増。瞬く間に人気チャンネルの一つとなりました。また、本業のイタリアンレストラン「ラ・ボッテガイア」もミシュランガイドのビブグルマンを獲得し、良いニュースが続きました。

いかにしてオーディエンスを温めたか

彼らがオーディエンスとの関係性をどのように築いたのかを振り返ると、次の3つがまず挙げられます。

  • 動画を毎日投稿(接触頻度を増やす/検索されやすいレシピ領域で動画数を増やす)
  • 他のソーシャルメディアをフル活用(接点と接触頻度を増やす/想起の機会を増やす)
  • 複数のエンゲージメントの獲得ポイントを揃える(多様な需要に応え、ビジネスにつなげる)

「動画を毎日投稿する」という手法は、オーディエンスを温めてエンゲージメント獲得を誘発する最適な手段の一つです。彼らはほぼ毎日レシピ動画を投稿しました。現在は週4回の投稿になっていますが、2024年7月からスタートしたワイン専門チャンネル「ソムリエ青池とゆかいな仲間たち」では毎日動画が投稿されています。

他のソーシャルメディアとの連携も積極的に行っています。「パスタ選手権」などのSNS投稿キャンペーンを実施し、InstagramやX/Twitter、Facebookページも頻繁に活用しています。LINEアカウントをフォローするとレシピ本がプレゼントされるなど、あらゆる接点をフル活用しています。これらのアカウント単体では成長の余地がまだまだありますが、全力で取り組んでいる様子が伝わります。

複数のエンゲージメント獲得ポイントを準備

オーディエンスビルディングでは、「関係性の分岐点」を意識したエンゲージメント獲得が重要です。関係性がまだ築かれていないユーザーに対して次のメッセージをどのように届けるかという視点は、長期的なコンテンツマーケティングに欠かせません。

「関係性の分岐点」を意識したエンゲージメントの獲得が重要
「関係性の分岐点」を意識したエンゲージメントの獲得が重要

「Aosトラットリア」は、複数のエンゲージメント獲得ポイントを効果的に整備しました。時間の経過とともに「結果としてこれだけの要素が整った」というのが適切かもしれませんが、コンバージョンポイントやその前段階の「関係性を深めるエンゲージメントポイント」も着実に準備されています。

「Aosトラットリア」では複数のエンゲージメント獲得ポイントを準備している
「Aosトラットリア」では複数のエンゲージメント獲得ポイントを準備している

注目すべきは、単に多くのバリエーションを揃えるだけでなく、「異なるレベルのものを用意し、多様なプラットフォームで展開した」という点です。価格帯も内容も豊富で、多彩な選択肢が提供されています。

  • 関係性を持つ/交流
    • YouTubeチャンネル登録
    • 関連SNSアカウント登録(Instagram、LINE、X/Twitter、TikTok、Facebookグループ)
  • 積極的交流
    • SNS投稿キャンペーンへの参加(料理をSNS投稿、抽選でプレゼントあり)
    • ライブ配信視聴(一緒に料理を作って食べよう、ワイン会など)
  • 購入/申し込み
    • アマゾンでのレシピ本購入(電子書籍、5冊、500円~1500円)
    • YouTubeチャンネルメンバーシップ(290円/月、1,190円/月)
    • ECでの食材購入とワイン購入(食材1,000円~、ワイン2,000円~)
    • 有料のオンライン料理教室とオンラインワイン講座(Zoom×EC、1万円前後/回)

動画ではレシピ本の紹介やオンライン教室の案内はもちろん行い、ECで扱っている食材やワインもレシピや動画で積極的に取り入れて紹介していました。

ユーザーの好みや関心度は様々です。提供側がこのように多様なレベルのコンテンツを揃えることで、ユーザーからの反応を引き出しやすくなります。提供側には多くの労力と準備が必要ですが、彼らは時間をかけてそれを整えてきたのです。

彼らは常にビジネスの成長を考えていた

この取り組みは、彼らがビジネスをどのように立て直し成長させるかを常に考え、実行してきた結果だと思います。ビジネスが危機的状況にあったため、その試行錯誤は必然だったのでしょう。

2020年6月に開設されたチャンネルは、現在では28万人の登録者を抱えるまでに成長しました。レストラン事業だけだった時期よりもはるかに広いオーディエンスを獲得しています。また、新たにワインに特化したYouTubeチャンネルも開始されました。ワインをテーマにすることでセグメントは小さくなりますが、その分、オーディエンスの濃密でポジティブなアクションが期待できます。

私自身、このチャンネルを初期から気に入っており、その成長とコンテンツマーケティングの取り組みを身近で観察してきました。その過程は非常に学びの多いものでした。

さらに、唯一残ったイタリアンレストラン「ラ・ボッテガイア」はミシュランガイド東京2023のビブグルマンを獲得しています。4年前と比較して、ビジネスとしての選択肢が大幅に広がっている様子が見受けられます。

これはあくまで外部からの観察に基づくものですが、コンテンツマーケティングの優れた事例として非常に参考になる取り組みだと思います。

このコラムは、2024年9月3日発行のニュースレター「真摯レター」のコラムを再編集したものです。ニュースレターの購読はこちらから。

株式会社真摯では、コンテンツマーケティングの戦略面での支援を行っています。

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