生成AI時代に「ブランドとの月間総接触時間」を再考する

この記事の要点
  • 生成AIの普及によって、情報を得るためにWebサイトを訪問するとは限らなくなった。「情報を提供すること」と「企業がユーザーとの接点を得ること」が分離し始めている
  • 「ブランドとの月間総接触時間」は、Webサイトやメール、SNS、動画などを横断して、企業とオーディエンスとの関係を捉えるための概念。正確な計測はできなくても、取り組みを考えるための補助線になる
  • 可処分時間が細切れになる中、個々のチャネルの数字を最大化するだけでなく、ユーザー接点の全体像を設計することが重要。接触を積み重ね、人々の限られた時間と記憶の中にブランドの居場所を作る

オーディエンスとの接点の全体像を設計して、人々の限られた時間の中にブランドの居場所をどう作るか、というお話です。

10年以上前、「メディアサイトの評価は『接触時間』がキーになる」という記事を書きました。

当時考えていたのは、ページビューや訪問回数だけではなく、一人のユーザーが一定期間にそのメディアとどれだけの時間を過ごしたのか、という視点でした。

1回の訪問での滞在時間ではありません。1カ月の中で何度か訪問して合計でどれくらいの時間をそのメディアに使ったのか、またWebサイトだけでなくSNSやアプリなども含めて考えれば、企業やブランドとの接触全体を捉えられるのではないか。当時はそのようなことを考えていました。

久しぶりにこの記事を読み返してみると、この考え方はいまも重要になっていると感じます。

目次

情報を提供しても、ユーザーと接点を得られるとは限らない

生成AIの普及によって、何かを知りたいときに必ずしもWebサイトを訪問する必要がなくなってきています。

これまでは、検索エンジンで調べて検索結果からWebサイトを訪れて、そこで情報を得るという行動が一般的でした。企業にとっては、情報を提供することがユーザーと自社との接点を作ることにもつながっていました。

しかし、検索結果上や生成AIとのやり取りだけで情報収集が完結すれば、情報は利用されてもWebサイトには訪問されないことがあります。

「情報を提供すること」と「その企業がユーザーとの接点を得ること」が分離し始めている状態です。

Webサイトで多くのページを見てもらうことや、長く滞在してもらうことは引き続き重要です。しかし、それだけでは企業とオーディエンスとの関係全体を捉えにくくなっています。

そこで改めて考えたいのが「ブランドとの月間総接触時間」です。

「ブランドとの月間総接触時間」という指標(あるいは概念)

「ブランドとの月間総接触時間」という指標を再び考えてみます。指標というより概念と捉えた方がよいかもしれません。一人のユーザーが1カ月間に特定の企業やブランドと接した時間をすべて合計したものと考えてください。

ユーザーを中心にWeb、メール、SNS、動画、音声、リアルの6つの接点が配置された、ブランドとの月間総接触時間を示す図
ブランドとの月間総接触時間

Webサイトの記事を読む時間、メールマガジンを読む時間、YouTube動画を見る時間、SNSの投稿に触れる時間、Podcastを聞く時間、店舗で商品を見る時間、街中で広告を見かける時間、ニュースサイトの記事でその企業の名前を目にする時間。

そういった接触をすべて合計できたとしたら、その人は1カ月間で何分あるいは何時間、そのブランドと接しているのでしょうか。

もちろん、これを正確に計測することは不可能です。

1ユーザーが複数端末を利用している中でWebサイトの利用時間でさえ計測は困難です。SNSや動画、メール、リアルな場所での接触まで含め、ユーザー単位で統合することは非現実的です。

また、接触時間が長ければよいわけでもありません。興味のない広告を何度も見せられることも接触ですし、トラブルの問い合わせに長い時間を費やしてもそのブランドへの支持は高まりません。

「ブランドとの月間総接触時間」はKPIとして計測するものというよりも、企業とオーディエンスとの関係を考えるための補助線として捉えるのがよさそうです。

一度の訪問よりも、次の接点を作れるか

この視点で考えると、Webサイトへの訪問の意味も変わってきます。

そのセッションで何ページ見てもらったか、何分滞在してもらったかだけではなく、その人と次にもう一度接点を持てる状態になったかが重要になります。つまり、次のメッセージをどれだけ確実に届けられるようになったか、です。

メールマガジンへの登録、SNSのフォロー、YouTubeチャンネルへの登録、定期的なPodcastの視聴、企業側がフォロー関係や直接の連絡先を持っていなくても、ユーザーにブランド名を覚えてもらって必要になったときにご指名で検索してもらえるのであれば、それも「再びつながれる状態」の一つです。

一度訪問してもらうこと以上に、次の接点につながる関係を作ること。

情報との接触が細切れになり、Webサイトへの訪問が必ずしも発生しなくなるほど、この視点は重要になります。

オーディエンスとの接点の全体像を設計する

私たちが1日24時間の中で自由に使える可処分時間には限りがあります。どんどん細切れになっていく可処分時間の中で、企業は接触の機会を奪い合っている状態です。

だからこそ、企業にとって重要なのは、Webサイト、メール、SNS、動画といった個々のチャネルの数字をそれぞれ最大化することだけではなく、オーディエンスとの接点の全体像を設計することです。

チャネル個別最適から、ユーザーを中心にWebサイトやSNSなどの接点全体を連動・設計し関係性を強化する構造
チャネル個別最適から「接点全体の設計」へ

Webサイトのコンバージョンやエンゲージメント時間、メールの開封率、SNSのエンゲージメントなどの数字はもちろん重要です。それらを個別に見るだけでなく、ユーザーとの間に他にどのような接点があってどのようにつながり、次の接触へ続いているのかを把握する必要があります。

人々の限られた時間の中に、どれだけブランドの居場所を作れるか

そのとき目指したいのは、可処分時間を無理に奪うことではありません。

ユーザーが読みたいから読む、見たいから見る、知りたいから調べる。次の更新情報も受け取りたいから登録する。そして必要になったときにその企業やブランドを思い出す。

そうした人々の「前のめりな接触」を積み重ねていくことで、人々の記憶の中にそのブランドの居場所ができ、ブランドを理解してもらえるようになります。

Webサイトだけを捉えて「どうすればもう1ページ見てもらえるか」と考えるだけではなく、「どうすればこのユーザーと今月もう一度接点を持てるだろうか」「どのようなコンテンツなら次も受け取りたいと思ってもらえるだろうか」と考えてみる。

そうすると、それぞれのチャネルの役割や届けるべきコンテンツのヒント、課題が見えてきます。

「ブランドとの月間総接触時間」は正確に測ることはできません。それでも、その架空の数字を増やすつもりで自社の取り組みを眺めてみること。個々のチャネルの数字だけではなく、接点の全体像としてオーディエンスとの関係を捉えてみること。

そうすることで、これから作るべき接点やコンテンツ、そしてユーザーの限られた時間と記憶の中にどう居場所を作るのかについて、課題が見えてくるはずです。

この記事は、2026年8月24日発行のニュースレター「真摯レター」のコラムを再編集したものです。ニュースレターの購読はこちらから。

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株式会社真摯 代表取締役。マーケティング視点と分析データの根拠を元に、Webサイトの分析改善やKPI設計など企業のデジタル領域のビジネス改善を支援している。

大学卒業後、外食チェーンストアに入社。その後の百貨店での勤務も含め、店舗現場での実務や接客コミュニケーションが仕事の原点。2002年にWebビジネスの世界に入り、2004年からアクセス解析を軸としたWebマーケティング支援を手掛ける。Web制作会社とインターネット広告代理店を経て2010年に独立、のち法人化、現在に至る。

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