閉じ始めたウェブ、把握できないものが増え、しかしそれこそが重要になってきた

閉じ始めたウェブ、把握できないものが増え、しかしそれこそが重要になってきた

ウェブは少しずつ閉じ始めてきました。オープンウェブからクローズドアプリへというテーマは、iPhoneやFacebookが普及し始めた2010年頃から言われ始めましたが、2020年には「閉じた要素」が多く揃いました。

ウェブは閉じた方向に向かっています(もちろん現実世界との接続など拡大もしていますが)。私たちは、ビジネスを動かしたり分析や改善を行ったりするとき、閉じ始めたウェブにも向き合わなければなりません。

以下の6つの項目に沿って話を進めます。

  1. 囲いの中での行動を優遇し始めたプラットフォーム
  2. 非公開アカウントとクローズドコミュニケーションの増加
  3. エンゲージメントの一定量を非公開アカウントが占める
  4. ウォールドガーデンやペイウォールは一般的に
  5. Cookieベースの計測の制約や限界、個人情報を尊重した計測
  6. 国境が見え始めたインターネット
目次

閉じ始めたウェブの世界

囲いの中での行動を優遇し始めたプラットフォーム

TwitterもFacebookもInstagramもYouTubeも、プラットフォーム内での行動、エンゲージメントを望み、優遇しています。プラットフォーム内アクションやコミュニケーションが重視され、外部サイトに移動するような投稿はあまり良い待遇を受けません。ハイパーリンクはスマートフォンアプリであればアプリ内ブラウザーで展開され、プラットフォーム内行動を維持させようとします。

【エンゲージメント】SNSやソーシャルメディアなどでのマーケティング活動において、投稿に対してユーザーがどれだけ反応を示したかを表すもの。ポジネガを含む積極的な関与のこと。

非公開アカウントとクローズドコミュニケーションの増加

クローズドコミュニケーションが増加したとき、検索で把握できる口コミなどの調査は、全体のコミュニケーションのうち一部を対象にしているにすぎません。より本音に近い声は、閉じた中にあります。

ソーシャルメディアには、非公開アカウントで利用するユーザーが一定数います。非公開アカウントがどれぐらいいるのかという公式な発表は見かけませんが、TwitterやInstagramのユーザーの40~50%が非公開アカウントというリサーチ結果もあります。

スパムやボットの多くが公開アカウントであることを考えれば、プラットフォームによっては「純粋なヒトによる公開アカウント」がアカウント全体の半分以下の可能性すらあります。

FacebookやLINEのみならず、メッセンジャーアプリやSlackやチャットワークなど、クローズドコミュニケーションは体感的には増加しました。そこでの会話内容は、外部からはほとんどわかりません。

クローズドな場所で人はどんな会話をしていると思いますか? 例えばあなたはどのような会話をしていますか?

エンゲージメントの一定量を非公開アカウントが占める

前段と関連しますが、企業がソーシャルメディアアカウントを運用していると、エンゲージメントの一定の割合を非公開アカウントが生んでいることに気がつきます。プラットフォームやアカウントにもよりますが、数%というレベルではなく、数十%にのぼるケースもあるでしょう(一方で、エンゲージメントの一定量が、スパムや自動運用アカウントによる自動操作で発生していることにも気付くはずです)。

フォロワー像は見えているでしょうか。フォロワーとコミュニケーションは取れているでしょうか。自社がどのようなアプローチを取るべきかのヒントになるのに加え、参考にしている他のアカウントがなぜ人気なのか(あるいは人気そうに見えるのか)、外部から把握できる要素は一部であるという理解も必要です。

ウォールドガーデンやペイウォールは一般的に

メディアやコミュニティがウォールドガーデンやペイウォールで運用されるケースが増えました。Webサイトに加え、自社アプリ内で顧客にアプローチするケースも増えました。

重要な情報の流通が、会員制や有料制の閉じたプラットフォーム内で行われ始めています。

【ウォールドガーデン】一部のユーザーに利用を限定して、そのユーザーにできるだけそのプラットフォームの中で活動してもらうような仕組みのこと。
【ペイウォール】Webサイトがコンテンツや記事を有料化し、対価を支払ったユーザーや有料会員だけが全文や全コンテンツを閲覧できる仕組みのこと。

Cookieベースの計測の制約や限界、個人情報を尊重した計測

ブラウザーSafariによるITPをはじめ、Cookieベースの計測が難しくなり始めています。個人情報を尊重した計測が求められ、ユーザーから同意を得たものだけを計測する、というのが今後のインターネットの世界でしょう。

外部サイトからの訪問ユーザーからリファラー情報を取得できないダークトラフィックも増加しました。

つまり、大局では計測そのものが以前より制約を受けていることを理解しなければいけません。ユーザー軸の分析やターゲティングの技術が進んだ一方で、計測そのものが全数ではなくかつ細切れで、さらにマスクされています。

国境が見え始めたインターネット

中国には以前からインターネット上に国境がありますが、今年に入って「国境」が世界のインターネット上でより強調され始めています。

多くの私たちにはどうすることもできませんが、これまで利用していたプラットフォームが突然制約を受けたり、停止してしまったりすることがあるかもしれません。

関係性構築と、より特徴あるユーザーや行動にフォーカスを

粒度やフォーカスはさまざまですが、こうやって「閉じ始めたウェブの世界」を挙げていくと、閉じられた方に重要な行動が多いことにも気がつきます。「何が何でも計測するぞ、自分たちのテリトリーに連れてくるぞ」という時代は終わりました。現実的な解としてルールの中での関係性構築や、よりパフォーマンスの高いユーザー群やキャンペーンをまずは意識するという方向になるでしょう。

  • プラットフォーマーのルールの中でまずはユーザーと関係性をしっかり築く
  • ユーザーとの信頼関係の上で、特にエンゲージメントの高いユーザーを意識して見る
  • 計測できるものはしっかり計測する

把握できないものは増えるでしょう。閉じ始めたウェブに向き合うとき、より特徴あるユーザーや行動にフォーカスを当てて把握する、ということに意識する必要がありそうです。

ただし施策に反映する際は、すでに高いエンゲージメントを示すユーザーに対して展開するのではなく、その外側の将来の顧客に向けていかに関係性の距離を縮めるかをまずは考えたいです。

このコラムは、2020年8月20日発行のニュースレター「真摯レター」のコラムを再編集したものです。ニュースレターの購読はこちらから。

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株式会社真摯 代表取締役。データの根拠とマーケティング視点を軸に企業のWebビジネスの改善を支援しています。プロフィール詳細

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