「誰が」の時代に企業の存在感を高めるためのBCG「インフルエンスマップ」の可能性

「何を言うかよりも誰が言うか」あるいはその逆の主張を含めて、過去多くの人が議論をしてきました。正論としては「何を言うか」を重視したいかもしれませんが、現実的には「誰が言うか」の影響力に勝てないことを認めざるを得ないケースは多いです。

検索エンジンでもソーシャルメディアでも、「誰が」つまり情報発信者の属性や影響力が優先されやすいというのが昨今の傾向です。存在感のある企業や人が発信すれば重みを持ち、そうでない者が語れば埋もれてしまう。この現実は企業にとって「(ひとかどの、という意味での)誰か」になることの必要性を突きつけています。

しかし「誰か」になるのは簡単ではありません。「誰か」であり続けることはさらに困難です。存在感を常にアピールし、専門性や独自の価値提案を磨き続けなければいけません。継続的なマーケティングも欠かせません。これは多くの企業にとってなかなか重い道のりです。

目次

従来の線形的なファネルから脱却し、非線形なモデルを採用せよ、という主張

こうした「誰が」を重視する時代において、企業の存在感を高めるアプローチも変わってくるでしょう。

先日、英語版のThink with Google経由12でBoston Consulting Group (BCG) による記事を目にしました。マーケターは従来の線形的なファネルモデルから脱却し、非線形の「インフルエンスマップ (influence map)」を採用すべき、という主張の記事です。ユーザーの行動変化はもはや線形的ではなく、それを認識した上でリソース配分やコミュニケーションの見直しをしなければならないというものです。

BCGの「インフルエンスマップ」とは何か

BCGの提唱する「インフルエンスマップ (influence map)」は、従来の線形のファネルを再構築したフレームワークです。まず現代のカスタマージャーニーは、ストリーム、スクロール、検索、ショッピングという4つの行動タイプ(4S)によって定義される、としています。

ユーザーの4S行動
  • ストリーム (Stream)
  • スクロール (Scroll)
  • 検索 (Search)
  • ショッピング (Shop)

従来のカスタマージャーニーは「認知→興味→欲求→行動」のような時間軸に沿った直線的なファネルモデルで構成されます。しかし現代のユーザー行動はそれほどシンプルではありません。

一方「インフルエンスマップ」では、上記4つの行動タイプ(4S行動)は特定の段階に限定されることなくカスタマージャーニー全体にわたって同時並行で発生し、相互に影響し合うとしています。軸は従来型の「リーチ」ではなく「インフルエンス(影響力)」です。

線形ファネルと影響マップを比較し、柔軟な購買行動を示すインフォグラフィック。
インフルエンスマップでは、ユーザーの4S行動はカスタマージャーニーにて同時並行で発生し相互に影響し合う。軸は従来型のリーチではなくインフルエンス(影響力)

4S行動の割合や影響度はユーザーによって異なります。そのため、個々のカスタマージャーニーに合わせて調整することを前提としています。これは商材によっても変わるでしょう。

このフレームワークは、ユーザーがさまざまな方法で情報を取得している現実を反映しています。企業はそれぞれのタッチポイントにおいてユーザーの4S行動の割合や影響度を考慮し、その上で「存在感」をアピールする戦略を立てる必要があります。

企業視点によるユーザーの4S行動

4つの行動分類を、企業視点での具体的な内容に置き換えてみます。

ユーザーの4S行動と企業視点の内容
  • ストリーム:自チャネルの発信コンテンツ、スポンサードコンテンツやプロダクトプレイスメント、動画のインストリーム広告
  • スクロール:ソーシャルメディアでの発信コンテンツ、ソーシャルメディア広告、UGC、インフルエンサーマーケティング
  • 検索:検索エンジンマーケティング(SEO、運用型広告など)
  • ショッピング:カートやフォームのUX、WebサイトのCRO、実店舗連携、販促、会員向け施策(ロイヤリティプログラム)、ブランド想起の獲得、レビューの活用

例えば「検索」「ショッピング」を「SEOや運用型広告」「Webサイトやアプリの改善、CRM」という言葉に置き換えれば理解しやすいかもしれません。「ストリーム」「スクロール」は、「オーディエンスに向けてコンテンツをどのように作り、流通させるか、エンゲージメントを獲得するか」という視点の内容になりそうです。これはコンテンツマーケティングの視点と一致します。

ユーザーの4S行動と企業視点を対比した図で、行動に対する企業の対応を示している。
企業視点によるユーザーの4S行動

自社の取り組みと照らし合わせたとき、十分に取り組めていない領域もあるのではないでしょうか。

納得感の一方で、立ちはだかるハードル

「ストリーム」「スクロール」「検索」「ショッピング」の4つの行動分類は、うまく分類されていると感じます。それらがカスタマージャーニー全体にわたって同時並行で発生し相互に影響し合うという内容にも、一定の納得感があります。重心を従来型の「リーチ」から「インフルエンス(影響力)」へ移行しているという点も良い指摘です。

一方で、このフレームワークに沿ってユーザー行動を分析しマーケティングに実装するのは、容易ではないことにも気付きます。BCGの記事の後半でも触れられているとおり、このフレームワークを効果的に運用するにはAIの活用と統合データ基盤が不可欠です。だからこそGoogleもこれに乗っかって紹介しているのでしょう。

カスタマージャーニーがユーザーや商材ごとに異なるという4S行動のフレームワークそのものが複雑です(カスタマージャーニーがシンプルではなくなったことの裏返しではあるのですが)。それぞれのタッチポイントで最適なメッセージングや施策を行うというのも、統合基盤とAIによる自動化された運用を前提とせざるを得ません。「インフルエンス (attention, relevance, and trust)」の測定と定量化に関しても、AIを用いたとしても難しいはずです。

これらはリソースの限られる企業にとって、取り組みそのものが大きなハードルとなり得ます。「インフルエンスマップ」の実装そのものが組織全体の変革を必要とするレベルとも言えます。

「存在感の最適化」に向けて

とはいうものの、この1~2年のAIの進歩はめざましいです。いまから早々に見切りを付けて従来のスタイルに固執するのではなく、可能性を探ってこのテーマ周辺に注目しておくのも一つの選択です。

ユーザー行動の4つの分類は有益です。十分に取り組めていない領域があれば、「施策として欠けている領域がある」という認識を持った方が良いでしょう。インフルエンスマップは「存在感の最適化」のためのフレームワークや指針と言えるかもしれません。冒頭で触れた「誰が言うか」の重要性と関連します。

ここでも施策を行い、計測し、改善していくことが求められます。インフルエンスマップを軸に捉えるのであれば、「誰に」「どのタッチポイントで」「どのようなコンテンツを」「どのように流通させ」「どのようなアクションを期待するか/エンゲージメント獲得を図るか」を定義する必要があります。

ユーザーの情報獲得チャネルや意思決定に影響を与える要素が多様化する中で、企業はさまざまなタッチポイントで専門性や価値をアピールする必要があります。BCGによる「インフルエンスマップ」は一つのヒントになりそうです。

  1. Use influence pathways and maps with AI – Think with Google ↩︎
  2. Map today’s customer journey with AI – Think with Google ↩︎

このコラムは、2025年3月24日発行のニュースレター「真摯レター」のコラムを再編集したものです。ニュースレターの購読はこちらから。

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