GA4のオーディエンス機能は「誰が重要か」を定義するフレームである

誰が重要なユーザーなのか。どのようなユーザーがコンバージョンに貢献しているのか。この問いに対して、GA4はなかなか簡単にはヒントを教えてくれません。

必要なのは、自ら「誰を理解したいか」という視点を設計すること。「オーディエンス機能」がユーザー分析を前に進めてくれるはず、今回はそんなお話です。

この記事のまとめ
  • オーディエンス機能の本質は「誰が重要か」「誰を理解したいか」を定義するフレームである
  • セグメントは「切り分け」、オーディエンスは分析の出発点となる「定義」である
  • ユーザー理解は「誰に注目するか」という問いから始まる
目次

「誰が」という問いに、GA4は簡単にはヒントを教えてくれない

Webサイトを分析する際、一般的に4つの基本的な軸を使用することがあります。ユーザー、集客、行動、コンバージョンの4つの軸です。ぞれぞれ「誰が、どこを接点として(どこからやってきて)、何をしたか、成果につながったか」という視点です。

これらの軸を組み合わせることで、Webサイトの課題や改善のヒントを見つけやすくなります。例えば「特定ページ起点のセッションはコンバージョン率が高い」「SNS経由のセッションは一定のエンゲージメント率があるがコンバージョンに至りにくい」といった具合です。

GA4では、「集客、行動、コンバージョン」の軸でレポートや機能はある程度揃っています。参照元やランディングページ、イベント軸、コンバージョン、ファネルといった観点から、分析を始められます。

一方で、どういったユーザーかを把握する「ユーザー軸」については、標準で用意されている視点が限られている印象です。デバイスカテゴリ、端末の技術的分類、国や地域、性別年齢などがディメンションとして用意されていますが、多くのWebサイトで共通して使えるのはデバイスカテゴリくらいでしょう。地域や性別年齢は一部のBtoC向けサイトでは参考になりますが、多くのビジネスサイトにとってユーザーの本質的な理解につながる視点とは言いにくい面があります。

つまり、GA4の標準機能では「誰が」という問いに対して十分な答えを得るのが容易ではないのです。

いちしま泰樹

デモグラフィック属性が分析で重宝する時代でもなくなりました。ユーザーの理解には行動属性の視点を加えたいところです。そこで「オーディエンス機能」です

オーディエンス機能の真の役割は「誰が重要か」「誰を理解したいか」の定義

そこで重宝するのが「オーディエンス」の機能です。しかし多くの利用者にとって馴染みがなく、実際にはあまり利用されていません。追加の設定がなされておらず、活用できません。

Googleアナリティクスの「オーディエンス」レポート
標準ではデフォルトで準備されたAll UsersとPurchasersのみ利用できる(非eコマースではAll Usersのみ)。つまり活用しにくい

ご存じの人は、オーディエンスを「特定条件のユーザーの集合(を作れる機能)」と捉えていると思います。もちろん特定条件を満たすユーザーグループを作る機能であるのはそのとおりです。しかしそれは表面的な機能に過ぎません。

オーディエンス機能の本質は、「誰が重要か」を定義するためのフレームであることです。言い換えれば「誰を理解したいか」という視点を自ら設計することでもあります。自社のビジネスにとって注目すべきユーザーは誰か、その視点を具体的に設計し、データとして可視化する。それがオーディエンス機能の価値です。

セグメントは「切り分け」、オーディエンスは「定義」

GA4には「セグメント」という近い機能があります。ベースは同じでセグメント機能からオーディエンスを作成できるため、セグメントとオーディエンスは地続きでもあるのですが、両者の違いを理解することでオーディエンスの価値が見えてきます。

セグメントは「すでにあるデータを切り分けて比較する」ための道具です。分析の途中で「この条件で絞ればどうなるか」を確認する、いわば戦術的なツールです。

一方でオーディエンスは「自社としてどんなユーザーに注目するか」を定義する道具です。ユーザー分析の出発点そのものを設計する機能です。

セグメントとオーディエンスの違いを説明する図
セグメントは切り分け、オーディエンスは定義

この違いは大きく、オーディエンスは「誰に注目すべきか」という戦略的な視点を定義するための機能といえます。

「ユーザー属性」だけでなく「行動状態」でも捉えられる

オーディエンス機能のもう一つの重要な特徴は、「ユーザー属性」だけではなく「行動状態」でも捉えられる設計である点です。

例えば「特定領域のページを3ページビュー以上閲覧したユーザー」「領域Aと領域Bを閲覧したユーザー」といった定義が可能です。このオーディエンスは動的に更新され、条件を満たせばユーザーは自動で追加されます。一定の日数経過で外すこともできます。

オーディエンスの追加・除外条件を示す図。条件達成で追加、日数経過で除外可能。
オーディエンスは動的に更新される。条件を満たせばユーザーは自動で追加され、一定の日数経過で外すことも可能

これは年齢や地域といった静的な属性情報とは異なり、ユーザーの現在の関心や態度を反映した分類ができることを意味します。マーケティング施策を考える上で、「誰が」だけでなく「どんな状態の人が」を把握できることは強力な武器になります。

オーディエンス設計は「仮説」から始まる

オーディエンスを作ることは「仮説を立てる」ことでもあります。

「製品ページを複数閲覧したユーザーは導入意欲が高いのではないか」「LP閲覧後7日以内に再訪問したユーザーはCVに至りやすいのではないか」。こうした仮説をオーディエンスとして定義し、行動パターンや成果を検証することで、マーケティング上の「重要なユーザー」が具体化していきます。

つまり、GA4で「ユーザーを理解する」とは自分で軸を設計することに近いのです。オーディエンスを設計できる人は分析の方向性を自ら決められる人であり、ユーザー理解をリードできる人といえます。

いちしま泰樹

「誰が重要か」「誰を理解したいか」を仮説を元に定義できる、ということです

第一歩は例えば「再訪ユーザー」の分解から

「ではどうすれば?」という人は、具体的な第一歩として「再訪ユーザー」からオーディエンスを派生して定義することから始めるのはどうでしょうか。

再訪ユーザーはサイトに2回以上訪れたユーザー、いわゆるリピーターです。特徴的な行動や傾向を示しやすいユーザーです。

再訪ユーザーの設定例
再訪ユーザーの設定例

一方で、再訪ユーザーには「通算2回目の浅い再訪ユーザー」もいれば「何度も再訪してくれるユーザー」もいます。そこで例えば「5回以上訪問したユーザー」「30日間に3回以上訪問したユーザー」といった自社サイトの特性に合わせた派生オーディエンスを作れば、より掘り下げた発見につながります。

「30日間に3回以上訪問したユーザー」の設定例
「30日間に3回以上訪問したユーザー」の設定例。この条件で設定の際は一定の有効期間を設けるのが良い

加えて、「特定領域の閲覧」「特定イベントの実行」「コンバージョンまであと一歩」といった軸とも組み合わせられます。このような小さな仮説がユーザー理解の起点になります。

セグメントで一定のユーザーボリュームを見込めるかを確認してから

まずはいくつかの「自社として注目したいユーザー」の視点でいったんセグメントを作成し、現在のユーザーボリュームを確認してみてください。一定のボリュームを見込めそうであれば、オーディエンスとして設定しましょう。

オーディエンスは設定してからデータが蓄積されます。蓄積されたデータから各オーディエンスの行動の違いを見比べるだけでも、新しい発見があるはずです。

オーディエンスは、GA4のレポートでディメンションとして活用できます。Google広告との連携も可能です。分析で終わるものではなく、施策の起点にもなります。「誰に注目するか」を定義することは「誰にどんなアプローチをするか」を考える第一歩でもあります。

こうした実践を通じて見えてくるのは、オーディエンス機能の持つ根本的な意味です。それはユーザー分析の在り方に関わる問いかけでもあります。

いちしま泰樹

「どんな人か」をWebサイトでの具体的な行動に言い換えてみると良いです。まずはセグメントでユーザーボリュームを確認してみましょう

ユーザー理解は「誰に注目するか」という問いから始まる

重要なのは、ユーザー分析ではGA4が標準でヒントを教えてくれないということです。

提供されたままの機能やレポートを眺めているだけでは、表面的な数字の変化を追えても「誰が、なぜ、どのように行動しているのか」という本質的な理解には至りにくいです。ユーザー理解には、自分で定義した「誰に注目するか」という視点の設計が必要です。

その設計こそが分析の出発点になります。そしてその設計力がデータを活かせるかどうかの岐路です。

GA4のオーディエンス機能は、その「視点を設計する力」を具体化できます。単なるセグメント機能ではなく、ユーザー理解を形にする場所として捉えてみてください。

ユーザー分析は「誰を見るか」を決めることから始まります。オーディエンス機能の活用はその第一歩であり、データドリブンな意思決定の基盤となります。

まとめ

  • オーディエンス機能の本質は「誰が重要か」「誰を理解したいか」を定義するフレームである
  • セグメントは「切り分け」、オーディエンスは分析の出発点となる「定義」である
  • ユーザー理解は「誰に注目するか」という問いから始まる

GAの活用体制づくり、ダッシュボード構築、既存の計測設定の見直しなどをサポートします。

このコラムは、2025年10月14日発行のニュースレター「真摯レター」のコラムを再編集したものです。ニュースレターの購読はこちらから。

記事をシェアする

真摯のニュースレターを購読

月1回ほどコラムや情報をお届けいたします。いつでも購読解除できます。サンプル

株式会社真摯 代表取締役。マーケティング視点と分析データの根拠を元に、Webサイトの分析改善やKPI設計など企業のデジタル領域のビジネス改善を支援している。

大学卒業後、外食チェーンストアに入社。その後の百貨店での勤務も含め、店舗現場での実務や接客コミュニケーションが仕事の原点。2002年にWebビジネスの世界に入り、2004年からアクセス解析を軸としたWebマーケティング支援を手掛ける。Web制作会社とインターネット広告代理店を経て2010年に独立、のち法人化、現在に至る。

プロフィール詳細

会社案内の資料をダウンロードしていただけます

2営業日以内にご連絡差し上げます

目次