コンテンツマーケティングのKPIを一つだけ挙げるとすれば「どれだけオーディエンスを作ることができたか」ではないか
「コンテンツマーケティングのKPIを何にするか」という問題は、多くのプロジェクトが悩んでいるものかもしれません。コンテンツマーケティングはすぐに結果が出る取り組みではありません。これで果たして良いのだろうかと迷ったり、良い状況に向かっているのか実感をつかめないままというところもあるはずです。
ここではコンテンツマーケティングのKPIや評価軸について話をしていきます。
目的や立場によって評価軸は異なる
コンテンツマーケティングに限らず多くのプロジェクトがそうであるように、KPIや評価軸はまず「何を目的にするか」によって異なります。
「なぜやるのか」「どのような状態を目指すのか」の向かう先にある「ゴール」から逆算し、要所要所で交差点を設けるというのがKPIの一つの考え方です。その交差点を意図した内容で通過できればゴールに近づいているはずです。交差点を意図した内容で通過したにもののゴールに近づいている様子がなければ、その交差点は適切ではなかった可能性があることになります。
目的と戦略を定める重要さについては以前の記事で触れました。
それに加えて、KPIや評価軸は立場によっても異なります。
上図は立場によるコンテンツマーケティングの評価軸の違いを表したものです。やや乱暴にまとめてはいますが、コンテンツマーケティングに限らずほとんどのプロジェクトでは立場によってKPIや評価軸は異なります。
経営陣は事業への貢献を中心に見ようとします。中長期的なプロジェクトであれば、将来の貢献を期待してメディアがどれだけ成長しているかを把握します。
メディアの編集長やマネージャーであれば、メディアとして成長しているかを中心に見ます。もちろんメディアを構成する各コンテンツの反応もある程度の粒度で把握しますし、経営陣に対する「希望や将来の提示」も必要です。
コンテンツを作成したクリエイターやライターは、自身によるコンテンツへの反応を中心に見ようとします。どれだけ利用されたか、どれだけ反応やアクションがあったかなどです。メディアの成長に対してはそこまで意識的ではないかもしれません。
一方で、「コンテンツマーケティングのKPI」として一般的に以下のような指標が挙げられるのを見かけます。
- 流入数、PV数
- 回遊や滞在時間
- 読了率、スクロール率(それらが何を指しているかはさておき)
- 特定コンテンツ誘導
- ホワイトペーパーダウンロード、ニュースレター登録
- 再訪問
- ソーシャルメディアいいね、フォロー
- お問い合わせ、購入、コンバージョン
言わんとするところはわからなくもありません。しかし無駄に網羅的すぎる内容に感じます。コンテンツへの反応に関する指標も多い印象です。
KPIは10個20個も設けるべきではありませんし、「結局いろんな指標を見ないといけないの?」「どれも大事なの?」となってしまいます。
KPIを一つだけ挙げるとすれば先行指標「どれだけオーディエンスを作ることができたか」ではないか
KPIを一つだけ挙げるとすると、何を選ぶべきでしょうか。
各コンテンツへの反応を示したさまざまな指標はあくまでコンテンツに対する評価です。その把握が必要なのは認めつつ、コンテンツを用いたマーケティング活動である「コンテンツマーケティング」の評価としては、まずは「どれだけオーディエンスを作ることができたか、維持、成長できているか」が重要であると考えます。
例えばページビュー数や再生数は、あくまでコンテンツ単位で発生したものやその積み上げです。それらの把握は容易ですが、一見見栄えよく見えるものの成果を評価するには適していない「バニティメトリクス(虚栄の指標)」になりやすい指標です。
仮にページビュー数をKPIとして設けると、「ページビュー数の獲得を狙った記事」が正当化されてしまいます。ページを分割すればページビュー数を増やせそうです。またページビュー数での評価は質を担保できません。KPIとして扱うには別の視点の監視も必要になります。
そうではなく、「メディアとしていかにユーザーの信頼を獲得し、関係性を持ったりフォローや購読をされているか」の方が重要だということです。それを「オーディエンス」として捉えよ、把握せよ、ということです。
何より、ページビュー数や再生数などは単なる結果や「一致指標」だったりバニティメトリクスになりやすいのに対し、「どれだけオーディエンスを作ることができたか」はその先の未来の数字を作る「先行指標」です。
以前の記事にてコンテンツマーケティングの4つの戦略軸を紹介しましたが、中心に据えたのは「オーディエンスビルディング」でした。重要なのはPV獲得よりも「再アプローチ可能なユーザーとの関係性構築」なのです。
オーディエンスを捉える意味、そしてその規模をどう計測するか
オーディエンスがいまどれぐらいいるのか、成長しているのかの把握は以下の意味を持ちます。
- 企業の声に耳を貸してくれる一定レベルの顧客層をどれだけ作ることができたか、維持、増加できたか
- 彼ら彼女らはそれぞれどのステージにいるか
それを踏まえてオーディエンスの規模をどう測るかを考えます。しかし一筋縄では行かないのがオーディエンスの把握です。
いったんは以下のような計測や把握を整備できます。
例として3つの領域の内容を挙げてみました。
- Webサイトの場合:アクティブユーザーのうち通算n回目以上訪問のユーザー
- ソーシャルメディアの場合:アクティブなフォロワー
- ニュースレターの場合:アクティブなコンタクト数
Webサイト:アクティブユーザーのうち通算n回目以上訪問のユーザー
まずはWebサイトから。「アクティブユーザーのうち通算n回目以上訪問のユーザー」というものです。コンテンツ領域の閲覧履歴を持っている必要があります。ログイン軸のUserIDで捉えられれば理想ですが、現実的には多くはCookie軸で捉えざるを得ないでしょう。アクティブユーザーはもうユニークユーザーと捉えていただいて構いません。
「通算n回目以上訪問」の基準は、自分たちが考える「常連層、固定客」のペルソナから定めても良いですし、Webサイトの現状を参考にして決めても良いでしょう。
例えば、当社Webサイトのある1カ月間の「通算n回目以上訪問」のデータはこのような内容です。Googleアナリティクス(GA4)のパラメータ「ga_session_number」で算出しています。
このデータを元に、対象のオーディエンスを「通算4回目以上」とするのか「通算11回目以上」とするかは自分たち次第です。ある程度の規模になる方がビジネスとしては扱いやすくなります。
やっかいなのは、アクティブユーザー(ユニークユーザー)として捉えるには課題が年々増えているということです。
まず、Webサイトがどのように構成されているかやコンテンツがどこで更新されているかの前提で左右されます。コンテンツ領域とビジネス領域でドメインが異なっていればCookieは分散します(クロスドメイントラッキングは一部条件を解決するだけです)。コンテンツシンジケーションで他メディアでも配信されていればなおさらです。
ユーザー側でも、昨今のCookie規制に関する事項や「計測されたくない意志」などにより、Cookieの分散や計測されないトラフィックが増えました。「Cookie分散」はユーザー数の割り増しになり、一方で計測されないユーザーの分だけマイナスになります。さまざまな要素がどれだけ影響しているのかはもうわかりません。「どれだけユーザーがいるのか」を捉えようとしても実態はぼやけてしまいます。
現実的には「○千人」「○万人」のように「おおよそこれぐらいのオーディエンスの規模である」と割り切って見るのが健康に良いと思います。ビジネスのヘルスチェックとしても、あなたのストレスにとっても。
ソーシャルメディア:アクティブなフォロワー
ソーシャルメディアでは「アクティブなフォロワー」やそれに近い値をオーディエンスとして捉えたいです。10年運営したアカウントの「合計フォロワー数」なんてまやかしですよね。
InstagramとTwitterを例に挙げてみます。
- Instagram:投稿のフォロワーリーチの平均値
- Twitter:投稿のインプレッションの中央値
- エンゲージメント数の推移
「普段どれだけリーチしているか(≒アクティブなフォロワー+α)」というものです。Instagramであればラッキーなことにリーチしたアカウントのうちフォロワーがどれだけかを把握できます。Twitterでは投稿がバズればインプレッションが異常値になってしまうので中央値で処理するのが良いです。
より「反応」を重視するのであればエンゲージメント数で良いでしょう。
とはいえ、把握するには少し手間のかかる内容です。各ソーシャルメディアで計測の仕様や定義はまちまちで、共通の指標で追うこともできません。もしそこまでのリソースをかけられないのであれば追わなくてもよいかもしれません。
ニュースレター:アクティブなコンタクト数
ニュースレターやメールマガジンでは、アクティブなコンタクト数をオーディエンスとして捉えたいです。MAツールでも同様ですし、他と比べて管理しやすい値です。
何をもって「アクティブ」とするかはメールの「開封数」や「クリック数」を軸にするのが妥当でしょう。
気をつけなければいけないのは「開封数」が当てにならないことです。
2021年後半から、iOSやmacOSといったApple社製品OSにてユーザーが「メールプライバシー保護」を有効にしている場合、標準メールアプリで受信するHTMLメールはすべて開封扱いになっています。開封数が実態よりも大きくなっているのは確実です。日本はiPhoneユーザーが多いため、特にtoC向けビジネスほどその影響は大きいはずです。
もうどの数値も、「数値の精度を信用できないが、それを頼りにする以外に良い手段がない」状態かもしれません。
木を見つつ森を類推しなければいけない
オーディエンスの規模は大雑把な把握にとどまりやすいのが現実です。もうどの数値も期待通りに計測されません。チャネルが増えればデータは分散し、統合して把握するのも困難です。
オーディエンスとして捉えたい数値はどれも「木の数値」であり、コンテンツ単位の指標は「枝葉の数値」であり、それらをもってコンテンツマーケティングという「森」を類推しなければいけない様相です。私たちはドローン並みの柔軟な視点と機動力で向き合う必要があります。
Webサイトを母艦とする場合は掘り下げた状況把握を
Webサイトを母艦としてコンテンツマーケティングを推し進めているプロジェクトは多いです。その場合はもう少し掘り下げた状況把握をすると課題発見や改善の取り組みを進められます。
この話は以前の記事でも触れました。今後の記事でもまたピックアップするかもしれません。
まとめ
- コンテンツマーケティングのKPIは目的や立場によって異なる
- KPIを一つだけ挙げるとすれば先行指標「どれだけオーディエンスを作ることができたか」
- オーディエンスを捉える意味は「一定レベルの顧客層をどれだけ作ることができたか」「彼ら彼女らはどのステージにいるか」
- Webサイト、ソーシャルメディア、ニュースレターでのオーディエンス規模の把握方法
この記事は、当社の資料『コンテンツマーケティングの戦略設計 – 取り組むべきはオーディエンスビルディング』の内容の1トピックスを記事化したものです。