Googleアナリティクスは2013年9月にセグメント機能を強化し、コホート分析を可能にしました。このコホート分析で、特定条件のユーザーの行動の変化や、ユーザーの定着率(維持率)を把握する方法を紹介します。
2015年1月16日追記。2015年1月より、Googleアナリティクスに「コホート分析」レポートが登場しました。2014年4月の執筆当時は「セグメント機能を活用してコホート分析ができる」というものでしたが、レポートとして登場したことで、制約は一部あるものの、より容易にコホート分析が可能になりました。この記事の末尾で、補足して「コホート分析」レポートの詳細を説明しています。
目次
コホート分析とは
コホート(コーホート)は、ある特定の条件や属性をもった集団(ユーザーグループ)のことで、コホート分析は、時間の経過に伴いそのコホートの行動がどのように変化するかを分析するものです。もともと人口統計学の領域で用いられていたようですが、最近ではWebサービスやアプリのスタートアップ界隈にて、会員ユーザーの維持率や継続率を把握するのに注目を集めている感があります。いわばリテンション分析の一つです。
下図のようなレポートを見たことがあるかもしれません。MixpanelやKISSmetrics、Flurry、Localyticsといった、海外のWebやアプリの分析ツールが標準でこのようなコホート分析(リテンション分析)のレポートを以前から提供していることもあり、周知が進んだと思います。
▲Mixpanel Retention Report(サイトより)
▲KISSmetrics Cohort Report(サイトより)
▲Flurry Analytics Retention(サイトより)
Googleアナリティクスでできるコホート分析
一方、Googleアナリティクスでコホート分析が可能になったというものの、残念ながら先ほどのような「コホート分析」という言葉でイメージされるレポートは提供されていません(註※ 現在は提供されています)。Googleアナリティクスの「セグメント機能」を活用して各自の設定でコホート分析ができるようになった、というのが実際のところです。
この記事では、Googleアナリティクスで可能になったコホート分析の例を2つ紹介します。
- 初回訪問日の期間でセグメントしたユーザーの、その後の訪問と行動状況の把握
- 特定のキャンペーン経由を最初の起点としたユーザーの、その後の訪問と行動状況の把握
他にも、「最初の訪問で特定コンテンツを閲覧したユーザー」や、オーディエンスデータを利用した年齢や性別でのユーザーグループでのセグメントなども考えられます。
註※ 2015年1月16日追記。2015年1月より、Googleアナリティクスに「コホート分析」レポートが登場しました。この記事の末尾で、補足して「コホート分析」レポートの詳細を説明しています。
初回訪問日の期間でセグメントしたユーザーの、その後の訪問と行動状況の把握
「最初のセッションの日付」を指定する
セグメント機能にて、初回訪問日(期間)でユーザーをセグメントできるようになりました。「2014年1月にサイトに初めて訪問した新規ユーザーが、その後どうなった?」といった把握に活用できます。
セグメント機能の「新しいセグメントを作成」から「最初のセッションの日付」の項目を選び、期間や特定の日付を指定します。速いサイクルのビジネスやトラフィックが大きなサイトは週単位(あるいは日単位)で、そうでなければ月単位で期間指定するとよいでしょう。期間指定には、最大31日間までの制限があります。
▲「最初のセッションの日付」の指定例。「初回訪問が1月だったユーザ」という設定内容。
例えば、上図のように「初回訪問が2014年1月だったユーザー」というセグメントを作成し、その後の訪問と行動状況を見るには、レポートの表示期間を1か月ずつずらして見ていきます。
レポート表示期間を翌月の2月(2月1日から2月28日)にして、ユーザー数の変化を見てみます。
この例では、初回訪問が2014年1月のユーザー数は、1月の7,669人から2月は106人に変化しました。2月の時点で、1月の新規ユーザーの定着率(維持率)は1.38%ということになります。
これを繰り返しつつ、初回訪問月もずらしていけば、エクセルでこのような図にまとめられます。
▲ユーザーの定着率(維持率)レポート[イメージ]
※サンプルとして作成のため、先ほどのデータとは異なる内容です
このようなレポートは、今月の新規訪問ユーザーが6か月後にどれだけ定着するかといった予測に利用できます。ユーザーの定着率(維持率)をどのように向上させるかの改善の議論の基準にもなるでしょうし、ECサイトで月の経過に伴う新規ユーザーの売上も同様にまとめておけば、売上予測につなげられます。
訪問モチベーションの変化やコンバージョンのタイミングなどを分析する
先ほどは単にユーザーの定着率を見ただけでしたが、コホート分析では、初回訪問日の期間でセグメントしたユーザーが、その後どれぐらい訪問され、どのような行動をするのかといった変化を把握していきます。おおまかには以下のような項目が挙げられます。
- 再訪問、リテンションの状況(ユーザーの定着率、維持率)
- 訪問モチベーションの変化の状況
- 参照元や検索キーワードの変化
- ランディングページの変化
- 閲覧コンテンツの変化
- コンバージョンのタイミングやその際の行動
- 何か月後にコンバージョンに至ったか
- コンバージョンの際、どこ経由で訪問し、どのコンテンツを閲覧したか
「どれぐらいのユーザーが再訪問しているのか」「訪問の動機はどう変化しているのか」「閲覧コンテンツは変化しているのか」「何週間後/何か月後にコンバージョンに至るのか」といった内容を、期間をずらしながら分析していきます。
このように項目を挙げるのは簡単ですが、つまり「ユーザーとの関係性の構築の様子や変化」ですので、なかなか根気のいる内容です。
ユーザーの定着率(維持率)は先ほどの体裁のレポートでまとめますが、訪問モチベーションの変化や閲覧コンテンツなどの変化は、下図のように各月の状況のサマリーを一覧にするだけでも俯瞰して見られ、変化を把握しやすくなります。
閲覧コンテンツの変化は、個別のページで見ると把握しきれず破綻しがちです。「コンテンツグループ」の設定をしておけば、おおまかなコンテンツ群としてとらえることができますし、もしくはディレクトリ単位で把握するとよいでしょう。
特定キャンペーン経由を最初の起点としたユーザーの、その後の訪問と行動状況の把握
「シーケンス」で、接点の条件や順番を指定する
「サイトに訪問した一番最初のきっかけが特定の広告やキャンペーン経由だったユーザー」の、その後の行動の把握もできるようになります。広告キャンペーンの評価や分析の一環です。
セグメント機能の「新しいセグメントを作成」から「シーケンス」の項目を選びます。「シーケンス」は、ユーザー単位や訪問単位で条件の順番を指定できる機能です。必ずしも2つ以上の条件を指定しなくてもよく、「一番最初は○○○だったユーザー」という1つの条件だけでも指定可能です。ここでは「ユーザーの一番最初の接点が特定のキャンペーン」という内容で指定します。
▲「シーケンス」の指定例。ここでは「(参照元を問わず)/lp/campaign01.htmlが一番最初の接点だったユーザー」という設定内容。単位を「ユーザー」にし、シーケンスの開始を「最初の通過地点」に指定する
上図の設定ではランディングページのみで指定していますが、特定の広告キャンペーンの指定は多くの場合は以下のようなディメンションをAND条件などで組み合わせます。
- デフォルトチャネルグループ
- メディア
- 参照元/メディア
- キャンペーン
- ランディングページ
必要に応じて、「最初のセッションの日付」の指定と組み合わせます。時期ごとに施策の追加や変更をしたり、A/Bテストをしているケースは、各期間での比較が必要です。
▲特定時期のキャンペーン起点でユーザーをセグメントする場合は「最初のセッションの日付」も追加で指定する
あとは、先ほどの説明と同じように、「ユーザーの定着率(維持率)」を把握したり、その後の訪問モチベーションの変化やコンバージョンのタイミングなどを分析していきます。特定キャンペーン起点のユーザーなので、どのようにモチベーションや行動が変化したのか、その変化に対してより適切なアプローチができないかという視点で見ていきます。
どういったことがわかるのか
一番最初の訪問のモチベーションや接点、端末などの違いによって、その後の定着率や再訪問時の行動に変化が見られます。もちろんサイトや施策によって異なりますが、例として挙げると以下のようなものです。
- PC端末ユーザーに比べ、スマートフォン端末ユーザーの行動は限定的。PC端末ユーザーは、月の経過とともにキャッチーなコンテンツから運営側が期待するビジネス要素の強いコンテンツ閲覧へと徐々に変化するが、スマートフォン端末ユーザーは数か月後になってもその変化がない場合も。
- 広告が最初の接点のユーザーは、離脱するか定着かが比較的明確で、どれだけ再訪問を誘発させる要素やきっかけをユーザーに与えるかが鍵(想起させる指名キーワードやブランド名を覚えてもらう、リターゲティング広告、ソーシャルメディアを含めた露出など)。他の関連コンテンツの閲覧といった行動の変化も少ない。
- Facebookが最初の接点のユーザーは、着地がキャッチーなコンテンツであることが多いが、数か月後の行動に変化があまりなく、また再訪問もFacebook経由に限定していることが多い。特にスマートフォン端末では顕著。
- キャッチーなコンテンツの閲覧が起点だったユーザーを、少しずつビジネス要素の強いコンテンツ閲覧へと行動を変化させるのはむずかしい。特にスマートフォン端末は変化が小さい。eコマースの要素があれば、まだ比較的誘導はしやすい。
この内容はあくまで一例で、サイトによって結果は異なるはずですが、コホート(ユーザーセグメント)の時間の経過に伴うこのような行動の変化は、自分たちの施策が期待している結果に近づいているのかを確認するのに有効です。
期待と実際の乖離をどう埋めていくのかと、パーソナライズとターゲティング
コホート分析を、どのように改善につなげていくのでしょうか。
2つあると思います。特定属性のユーザーが運営側の期待する行動をしているのかをざっくりと把握した上で、1つめはその期待と結果の乖離をどう埋めていくのかというもの、2つめはその特定属性のユーザーに対してパーソナライズやターゲティングを検討していくというものです。
- 期待している行動と結果の乖離をどう埋めていくか
- パーソナライズやターゲティングへの検討
両者は、またがった内容でもあります。リテンション(再訪問)を誘発しているのはコンテンツなのか集客要素なのか、サイト内での適切な動線設計はリテンションやアクションに関係しているのか、メールやソーシャルメディアなど直接コミュニケーションが取れる方法を活かして適切なリテンションを誘発できないかなど、特定のユーザー層に向けたアプローチを進めます。
コホートの母数の確保や、PC・スマホ別にコホートを分けるといった注意が必要
ユーザーのセグメントであるコホートの母数を、ある程度確保することに注意が必要です。コホート分析は時系列に沿った取り組みのため、時間の経過と共に母数が二桁や一桁になると、分析が困難になったり意味をなさなくなります。細かくユーザーをセグメントをしていく際は、母数が小さくならないよう気をつけなければなりません。
また、PC端末とスマートフォン端末ではサイトによって行動が大きく異なるケースがあります。User-IDを利用したクロスデバイスの計測をしていなければ、あらかじめデバイス端末別にコホートを分ける検討も必要です。
マルチチャネルのレポートとの違い
マルチチャネルの各レポートは、コンバージョンしたユーザーの過去90日までの流入チャネルが把握できるユーザー軸のレポートです。各チャネルがどのように連携し、コンバージョンや売上にどれだけ貢献したのかの把握が目的のレポートのため、各訪問でどのように行動したかまでは追えません。
一方、コホート分析は、コンバージョンに至っていないユーザーも含めたユーザー群の行動の変化を把握していくものです。目的が異なるので、どちらかが優れているというものではありません。目的に合わせた分析をしていきましょう。
なお、コホート分析では、初回訪問から90日以降のコンバージョンでも把握が可能です。流入チャネルの貢献度という視点ではコホート分析は適切ではありませんが、どれぐらいの期間をかけてコンバージョンに至るのかという把握には利用できます。
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Googleアナリティクスを活用したコホート分析で、特定条件のユーザーの行動の変化や、ユーザーの定着率(維持率)を把握する方法を紹介しました。分析に少し手間がかかる上、データの評価もむずかしく、改善施策の効果が表れるのにも時間がかかる取り組みですが、「ユーザーとの関係性の構築」を分析できる方法の一つです。定期的に取り組んでみるとよいでしょう。
新たにGoogleアナリティクスに登場した「コホート分析」レポートについて(2015年1月16日追記)
2015年1月より、Googleアナリティクスに「コホート分析」レポートが登場しました。2015年1月16日の時点では「ベータ版」の表記があるため、今後仕様が変更になる可能性がありますが、どのようなことができるのかを紹介しておきます。
▲Googleアナリティクスに登場した「コホート分析」レポート
新しく登場した「コホート分析」レポートは、[ユーザー]のレポートグループ内にあります。MixpanelやKISSmetrics、Flurryなどで提供されているコホート分析と、同様のものが登場したと思っていただいてよいでしょう。
2015年1月16日の時点での仕様は以下の通り。
- 日別、週別、月別のコホートサイズにて、その後のユーザー維持率などが把握できる
- コホートの種類は「ユーザーを獲得した日付(Acquisition Date)」のみ、つまり初回訪問日
- 過去最大3か月までさかのぼって見られるが、コホートのサイズによってその期間は既定の選択肢のみ利用可能
- 指標はデフォルトでは「ユーザー維持率」となっており、各コホートのユーザー維持率の傾向が最初に表示される
- 指標は「ユーザーあたりのセッション(数)」をはじめ複数準備されているが、コンバージョンは特定のものを指定できず、全種類の総計のものとして選択可能。コホートごとに、何日後にコンバージョンしたかなどの把握ができる
- 標準レポートに備わっている期間指定機能が「コホート分析」レポートにはないため、「今日の日付から、最大で直近の3か月分」の内容でしかレポートは表示されない。つまり、「特定の日付から過去3か月までさかのぼった内容」の表示ができない
- 「マイレポートに追加」「データのエクスポート」「メール配信」の各機能は利用できない
「さかのぼれるのは今日の日付から過去最大3か月まで」という制約が、企業や担当者によっては大きく感じるかもしれません。一方で、標準のレポートにてこのような形のコホート分析が利用できるようになったのは、ありがたいです。改善のサイクルを速く回しているサイトであれば、この仕様でも活用できるでしょう。
基本的には、本文で触れた視点で分析していくことに変わりはありません。